文学茶話会 vol.8 、小林エリカさん回(9月12日!)の予習をいたしましょう。

    小林エリカさんの創作はいつも、自身のごく個人的な関心事からはじまります。
ものごとを吟味して、内側にしっかり抱え込んだなら、よく観察し、文献にあたり、人から話を聞いて調べを尽くします。
    次いで、広い意味での取材行為、すなわち旅に出たり、実際に体験してみたりということを、重ねていきます。
    こららの経過が、ていねいかつ丹念に文章化されたり造形化されたりすることによって、小林作品が生まれていきます。
    ごく個人的な関心事からはじまったはずの作品は、人の目に触れるころには、はっきりと社会性と時代性を帯びていきます。


    著作『忘れられないの』(青土社、2013)には、全10章の「世界の記憶」=作品が、収められています。
    過ぎていく日々のなかで出逢った、どうにも忘れられないものごとや人をなんとか留めようとして、マンガ、イラスト、写真、ドキュメンタリー、そしてフィクションなど、さまざまなかたちの創作にしてあります。

「過去のポートレート」では、だれかにとって大切だった瞬間を本人から聞き取り、文章・絵・写真を駆使して再現し、過去のポートレートをつくり上げていきます。

「My Love and Fallout」では、自身が放射能へ関心を傾けていく様子を、絵や文章でていねいに残していきます。

    そのなかで印象深いのは、『キュリー夫人伝』を読んで、彼女らがラジウムという新元素発見に至るくだりに惹かれる記述。
    キュリー夫人は発見について、『家庭料理』という本の、スグリのゼリーの作り方ページに、メモを残しているといいます。小林さんはその事実を知って、メモの内容もさることながら、その料理本のことが気になってしかたなくなってしまうのです。
    その本はムノン『町人の食卓』であることを突き止め、小林さんはそれを実際に読んでみます。ページを繰るうちにお腹が空いてきて、スーパーに買い出しに行って……と小林さんの文章は続きます。

    放射能という20世紀以降の一大トピックに目をつけ、探究を続けながらも、同時に個人的な営みからも離れることはなく、どちらも創作のなかに織り込んでいくのが小林さんの表現のしかたです。
    だからこそ小林エリカ作品はいつも読者や観者の共感を誘うし、大きなトピックをぐっと身近なこととして受け止められもするのです。


『忘れられないの』
小林エリカ
青土社