リアルイベント「文学茶話会」の予習をいたしましょう。
『亀たちの時間』フランチェスカ・スコッティ    現代書館



『亀たちの時間』に収載されている15の短編は、題材やシチュエーションがじつにさまざまですが、基調となる雰囲気はどれも同じです。
凛と冴えた空気が漂っていて、文章は詩的で研ぎ澄まされ、つねに美しさが意識されている。
読んでいると自分がすこし上等なものになった気になれます。


「ルナ」は、高齢者向けの滞在施設にやってきた人物が、やがて長い回想に入っていき、ルナについての悲しい記憶も甦ってきます。かつてのときを思い起こすのは、いいことなのかどうか。なんとも言えない気持ちになります。


「次の駅」は、日本の海沿いの田舎が舞台。通学電車に乗るミチコが、見知らぬ女のひとと、ひょんなことから言葉を交わします。そのやりとりは、決定的なものでした。

「降りちゃいけなかったのに。ここはあなたの駅じゃない」

という言葉に、意味合いが幾重にも織り込まれていて、驚かされます。
読後も頭から離れないひとことで、これから先、長く忘れないのだろうなと感じます。
ああ読書という体験も、こうして記憶になっていくことがあるのかと気づかされます。